【前回の記事を読む】膝や足首、首元を容赦なく切り裂いた。防戦するのが精いっぱいで、岩場に足を取られ転倒し…

第一章 蓮華衆(れんげしゅう)

「姉貴、気をつけな。この小僧、背中の箱を使って仙術(せんじゅつ)を使うよ」

亜摩利は義近の反撃を食らい、その攻撃方法の盲点を突こうとしていた。先ほどの戦いの反省から一方向からの攻撃ではなく、挟(はさ)み撃(う)ちの態勢を敷くよう蘇摩利に耳打ちした。さすが姉よりも知略が上の妹だけあり緻密である。

(うっ、挟み撃ちするつもりか? もう万事休すか……)

前門の虎、後門の狼である。

さすがに義近も手負いのうえ、二方向からの攻撃にはなす術(すべ)がない。

気力をふりしぼり、立ち上がるのが精いっぱいだった。右手方向に亜摩利が、左手方向から蘇摩利が背後を狙い回り始めた。背後を取られれば、亀の子作戦も通用しない。

義近はじりじりと後ずさりをした。すぐ後ろは、奈落の底である。しかしこのまま戦っても勝ち目はない。待っているのは死あるのみだ。どうする──義近はその時、源三郎の最後の姿を思い出した。

源三郎は、最後の最後まで蓮華衆の意地を見せた。意地を見せつけて、決して敵に屈せず自らの命を散らした。そうだ、最後に勝ったのは源三郎だ。

(よし! おいらもこいつらには絶対に屈しないぞ!)

「おい、おまえらよく聞け! 勝ったのは源じいだ! おまえらのような悪党には絶対に屈しないぞ。いつかおまえらをこてんぱんに叩きのめす強い忍びを連れてくるからな、逃げねえで待ってろよ!」

義近はそう言って天を仰ぎ、大きく息を吸った。

(源じい、おいらも忍びのはしくれだ。蓮華衆の誇りだけは捨てはしないぜ。源じいに負けない意地を見せつけてやるよ)

義近は二人をキッと睨(にら)みつけ、そのまま後ろに倒れ込むように崖から飛び降りた。

まるで川底に吸い込まれるように、真っ逆さまに落ちていった。