【前回の記事を読む】店のご厚意で二階で酒を飲ましてもらった。火鉢で暖を取りながら、襖をちょっと開けて覗くと…
第一章 帰巣
大広間には総勢四十人ほどが集まってきていた。重苦しい雰囲気を破ったのは沖見町の若衆・伊勢吉(いせきち)だった。
「絶対に権藤のやつらを廻船の仲間に入れるのは反対だ! どうせ冥加金(みようがきん)だって払う気はねえんだぜ」
浜の若衆は気が荒い。腹にものを持ってはいないが、気性が強く言葉が強いため、高田藩城内のものといざこざを起こすこともしばしばだった。
「そうだ、そうだ。連中は最近、のさばりすぎだぜ。しょっちゅう乱闘騒ぎを起こしてやがる。米問屋を襲ったり、船を沈めたり。今朝だって応化橋で騒ぎがあったって話だ」
塩浜町の克次郎(かつじろう)が肩をいからせて善兵衛を見た。
善兵衛は眉間(みけん)に皺を寄せ、目をつぶって若衆たちの声を聞いていた。
「確かに連中のふるまいは、最近目に余るものがある。先月も額を割られた不審な仏が二人も出た。連中の仕業かわからぬが、何をするかわからぬ連中だ。もし、むげに拒絶すれば、今町で被害を受ける者が出る恐れもある」
「なにかい。それじゃ、連中を仲間に入れるっつうのかい? そんなら、おいらたちが力づくで痛い目にあわせてやるぜ!」
興奮する伊勢吉の肩を叩いたのは、沖見町組長の寅次郎(とらじろう)だ。
「まあまあ待て待て。そんなに粋(いき)がるでない。若いもんは血の気が多くていけねえな。おめえの気持ちもよくわかる。だども、北風に北風で対抗して勝てると思うてか?もう少しじっくり考えることだて」
「そうだこて。わしも寅さんと同じだ。刺激しても何にもなんねえ。なんでも、奴らは、三月三日の『びしゃもん祭り』を狙っているという噂もあるねっか。万一、由緒ある祭りを汚(けが)されたんじゃ、ご先祖さんに申し訳が立たねえ」荒川町組長の年寄り、源三郎(げんざぶろう)が揉(も)み手をしながら若衆をみた。
今町の人々の心の拠り所である『びしゃもん祭り』が汚されるかもしれないという噂話に、さすがの若衆たちも口を閉ざした。