屋根裏部屋で覗き見していた勘治は、

「おい、おい。こりゃ大変なことになってるぞ! あのごろつき連中が大事な祭りを襲うかもしれねえって。おいら、あんまり面倒なことには関わりたくねえなあ。

せっかくうまい止まり木をみつけたと思ったんだが……。やっぱ、うまい話には裏があるってか」

勘治は頭からせんべい布団にくるまり、芋虫のように丸くなった。

各町内の若衆や年寄り衆たちの喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の末、この話は持ち越しとなった。

廻船元締めの善兵衛のあずかりとなったが、若衆たちは納得していない様子であった。若衆たちは熱気冷めやらぬ様子で、寄り合いの後に再度集う約束を交わしていた。

寄り合いが終わったのは、夜四つ(午後十時)を過ぎた頃であった。

さすがに善兵衛も疲労の色を隠せないようであった。深い皺がいっそう深く刻まれたようにみえた。

善兵衛は、お遥と居間の長火鉢の前で甘酒を飲んでいた。「お父っつあん、大丈夫かい。もう歳なんだから無理しないでよ。ほどほどにしておかないと体にさわるよ」

「わしも歳をとったな。肩が漬物石が載ったように硬くなっとるわ。それにしても権藤の連中は何が目的なのかのう」

「何がって、廻船の同業に入れてほしいということだろ? 違うの?」

「いや。堅気の商いを横取りするような真似は、連中のやり方ではない」

「でも、他に何か宝物でもあるかね……」

「それがわからぬから、不気味なんじゃよ……」お遥は甘酒を善兵衛の湯飲みに注(つ)いだ。

「ところで、さくらを助けてくれた旅人(たびにん)さんは、どうしとる?」

「海猫亭の屋根裏部屋で休んでるよ。ひとりは信州の旅人さん。なかなかお人よしで、よく食べ、よく喋る人なんだよ」

お遥はクスッと笑いながら言った。

「もうひとりの旅人さんは無口で、気難しいのかね……。あまり食べないし、あまり喋らない人だよ」

「まるで正反対の二人だな。まあ、さくらの命の恩人じゃ。ゆっくりしていってもらったらええ」

寒さは厳しく、雪こそ少ないものの外の水瓶(みずがめ)はうっすらと氷が張っている。時折り、身も凍るような突風が音を立てて吹き抜けていった。

かすかに海鳴りがゴオーと底響いていた。

空は満天の星が散らばり、鎌の三日月が出ていた。厳しい寒さに包まれ静かに今町の夜は更(ふ)けていった。 

 

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