【前回記事を読む】「俺は母親代わりになれない。必ず息子を苦労させる。」…子供を道連れに命を絶つことを決めた父。最期に語ったのは…

Case: A 夫の選択

「待たせて悪い。もういいぞ」

「さようですか。最終確認ですがもう心残りはありませんね?」

「あぁ。で、命を差し出すにはどうすればいいんだ? 儀式めいたものでも必要なのか」

「お望みであればそうしますが特に必要な手順はありません。過去、私が対応してきたクライアントは眠るように意識を失うことを選ばれる方が多かったのですがそのようにしましょうか?」

「そうだな……いや、やめておく。出てきたばかりでなんだが、病室に入ったその瞬間に消えることはできるか?」

「もちろん」

「じゃあそうしてくれ」

葵は昼過ぎまで眠った休日のようなボーッとした思考で二人のやりとりを眺めている。別世界の住人を見ているように。それこそ、テレビの向こう側にいる俳優の演技を羨むように。

「世話になったな。死神、そして葵さん」

「私は何もしてません……」

「そういえばキミも死神なのか?」

「あ、いえ……実は私、ここには連れてこられただけで」

「なんだそうなのか。どうりでキミだけ人間臭いなと思っていたんだ」

「は、はぁ」 

「それなら、ひとつだけキミにも頼み事をしていいか?」

「私にできることなら……」