【前回の記事を読む】急に連絡が途絶えたストーカー男の様子見に、家を訪ねた。電気は点いているのに返事がない。こじ開けたドアの向こう、見えたのは…

サイコ1――念力殺人

「きゃーっ!!」

遅れて部屋に入った麻利衣は思わず悲鳴を上げた。

そこは元々クローゼット用の小さな部屋で、入って右手東側の壁に小窓がついていたが、それ以外は窓もなかった。ハンガーパイプや衣服は見当たらず、そこをクローゼットとしては利用していないようだった。

ドアがある南側の壁一面には飾り棚がぎっしりと据え付けられており、棚からは無数の円柱型の突起が飛び出していたが、肝心のコレクションの姿はそこには一切なかった。そこに飾られ、林の目を楽しませていたはずの夥しい数の種々のナイフは全て北側の壁に突き刺さっていた。

そしてそこにスポーツウェア姿の男が、愛するコレクションによって立ったまま磔にされていたのである。ナイフは無慈悲にも右の眼窩、頬、口腔、体幹、四肢と彼の身体のありとあらゆる部位に突き刺さって、そこから夥しい血液が流れ、床に大きな血だまりを作っていた。

死後かなりの時間が経っているらしく、部屋には悪臭が立ち込めていた。ナイフは彼の急所を狙ったように刺さっているものもあれば、身体の中央部分をかすめ、皮膚のみを引き裂いて壁に刺さっているもの、遺体とは全くかけ離れた場所に刺さっているものも多くあった。遺体の近くに彼のスマホが落ちていた。

麻利衣は我慢しきれなくなり遂に嘔吐した。

「やはりな」

賽子が呟いた。

「は? 何ですか?」

胃の中の物を全て吐き出してようやく息を吹き返した麻利衣が訊いた。

「分からないのか。これは超能力者(サイキック)によるサイコキネシス殺人だ」

「サイコキネシス……」

「おまえも見たとおり、この家もこの部屋も鍵が掛かっていた。窓も鍵が掛かっているし、開けたとしても換気用の窓だから数センチしか開かないタイプで人が通れるはずもない。

両手両足ともナイフで壁に釘付けになっているのだから自殺もあり得ない。そうなると残された可能性はただ一つ。犯人は部屋の外からサイコキネシスで壁に飾られていたナイフを念動し、こいつを殺した。つまり犯人は超能力者(サイキック)だ!」

「そんな……馬鹿な……」

麻利衣はあまりのことに動揺し混乱して頭が回らなかった。

「あとは肝心の犯人が誰かということだが、それに関してはまだ依頼を受けていない。こっちは未来視もしくは未来予知が必要になるから透視などよりは遥かに精神エネルギーを消費する。お値段もその分かかるがどうする?」

「そ、それは千晶に訊かないと」

その時千晶が部屋に入ってきて口を両手で押さえながら鋭い叫び声を上げた。大きく開いた目からは涙が零れ、体を大きく震わせていた。

「どうして……こんなことに……」