「涼ちゃん。ちょっとコンビニに行ってくるけど何か買うものある?」

「今からコンビニって急に必要なもんでも出来たの? 切手とか、なんかの振込?」

「ううん。ちょっとお父さんのタバコをね」

「タバコ? そんなの本人に明日の朝行かせりゃいいじゃん。コンビニなんて通勤途中にいくらでもあるんだし」

「それもそうなんだけど、止むに止まれぬ事情があってね」

「なんだそりゃ。買って来いって言われたんじゃないの」

「そんなことないわよ。変な詮索してないで、涼ちゃんお風呂掃除でもしててよ。たまにはお父さんを一番風呂に入れてあげましょ」

「母さんは父さんを甘やかしすぎだよ。それに一番風呂って体に良くないんだぜ。人間の体は弱酸性なのに水はアルカリ性なんだから」

「その博識なところを勉強にも活かしてほしいなー」

「うるさいな……。俺だって忙しいんだ」

「ゲームの音、漏れてたわよ」

「え? そんなわけないだろ。ヘッドセット使ってたんだから――あ……」

「やっぱり」

涼子は簡単なハッタリに引っかかった息子につい吹き出してしまう。

「それじゃあ、お風呂お願いね。気が向いたらお父さんの晩酌の相手でもしてあげて」

「ぜってーヤダ」

涼介は分かりやすい反抗期に入っているものの、昔から悪態をつきこそすれ、本気で嫌う様子もない。俗に言うマザコンかもしれないが母親としては満更でもないのが本音だ。

そうやって物思いに耽っていると目の前の信号が青になっていることに気が付くのが遅れた。片側一車線道路のさして長くもない横断歩道とはいえ、既に渡り終えようとしている人もいる。

涼子は青信号が点滅してないか確認して小走りで道路へ向かった。

次回更新は12月13日(土)、11時の予定です。

 

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