当時の私は缶詰が主食だったかもしれない。鯖味噌煮、オイルサーディン、鮭水煮、コンビーフ、ツナ、鯨すのこ、さんまのかば焼き。ここら辺が定番で、牛肉大和煮なぞ、取り合いになったものだ。二級酒を持ち寄り、鯖缶を開け、鍋にぶち込む。あり合わせの野菜を投入して皆でワイワイ言いながら、フーフーと冷ましながら食べる。
あらかた食べ終わった後、鍋にインスタントラーメンを入れ、卵を落として平らげれば、若さと満腹感が相まって、俺達は無敵だ、薔薇色の未来が待っている気がしたもんだ。そういえば、鯖缶を温め過ぎて爆発させてしまい、タンクトップ姿だった為、上半身に火傷をした奴もいた。
日本の缶詰の歴史は、鰯が最初だったそうで、その後鮭缶が全国的な人気を博した。 沖縄で年明けに桜が咲き、北海道では五月の連休明けに散る。我が国は広く大きく、懐が深い。
土地も風土も環境も大きく異なるように、日本全国津々浦々に、多種多様な缶詰がある。北海道のカニ、つぶ貝、蝦夷鹿、トドのカレー。岩手のいちご煮、これはアワビとウニの澄まし汁だ。
千葉のとろいわし。長野の鯉こく、はちの子、鳥の肝。静岡のニジマス。新潟の紅鮭。大阪のどて焼き、これは牛すじを味噌とみりんで煮たものだ。
岡山のままかり。広島は牡蠣のオリーブオイル漬け。高知は鮎のアヒージョ。北九州は小倉のぬか炊き、これはイワシなどの青魚を、糠漬けで煮込む郷土料理だ。鹿児島の豚味噌。沖縄のスクガラス、これは瓶詰が多いが、アイゴの稚魚の塩辛だ。泡盛に漬けた唐辛子が、良いアクセントとなり、味に深みとコクを増す。
だがしかし、缶詰の王様はやはり、鯖だろう。味噌汁や素麺のつけだれ、炊き込みご飯に使う所もある。今ではタイ風カレーにアヒージョ風まである。北欧や南欧、フィリピンや米国産の鯖缶も売られているくらいだ。
アフリカで最も売れているのは、日本の鯖缶だそうだ。今ではネットがあり、世界中の缶詰が手に入る時代になった。独身の私が重宝したのが、オーストラリアの「マリナラ」缶と、イタリアの「トリッパ」缶だ。独身だと、食料の買い置きや保存に困る。一人きりだと、作り過ぎると同じ物を食い続けねばならない。
『もてあます 西瓜一つや ひとり者』流石は永井荷風、上手いことをいったものだ。
さて、「マリナラ」缶は、豪州近海で取れる様々な魚介類の水煮だ。小さなタコ、イカ、エビ等々が、大振りな缶にぎっしりと詰まっている。
【イチオシ記事】夫の不倫現場に遭遇し、別れを切り出した夜…。「やめて!」 夫は人が変わったように無理やりキスをし、パジャマを脱がしてきて…
【注目記事】認知症の母を助けようと下敷きに…お腹の子の上に膝をつき、全体重をかけられた。激痛、足の間からは液体が流れ、赤ちゃんは…