【前回の記事を読む】母が天寿を全うして旅立った――85年に満たない人生だった。5年前に脳梗塞を発症し最期は介護老人保健施設で迎えた

20.腹が減っては戦ができぬ

お腹が減っていてはよい働きができない。2017年8月

10時すぎ、施設に駆けつけて母が生涯を閉じたことを確認したら、あとは儀式に向けての準備に追われた。一度家に帰り、葬儀屋さんにお願いし、お寺に知らせ、その他必要なところに連絡した。また施設に行き、母の部屋を片付けて、退居。家に戻った。母が帰りたがっていた自分の家。

布団を敷いて母を仏壇の前に寝せた。近所の方がびっくりして来られた。母にすがって泣いてくださった方も。和尚様に枕経をあげていただいた。葬儀屋さんからだいたいの話を聞いたら、決め事は喪主である弟が帰福するのを待った。

気がついたらとっくに昼は過ぎていた。いつの間にか叔母たちがおにぎりやサンドウィッチや飲み物を揃えてくれていた。腹が減っては戦ができぬ。これからに備えて、まずは腹ごしらえ。こんな時でもお腹はすくもの。しっかり食べた。自分でこの食欲に驚いたが、弔いをしっかりやるためにも食べて力をつけないと、と思った。

葬儀の日までの家での食事は叔母や義妹や妹が中心になって作ってくれた。翌日の通夜、翌々日の葬儀と初七日。通夜、お斎(とき)(葬儀の前の、故人との最後の食事)や精進上げ、普段いただかないようなお寿司や鉢盛等、これまたしっかり食べた。通夜の日は葬儀場に弟と泊まった。通夜食の残りをお弁当につめてくれていた物も、夜食で平らげた。

それからしばらく叔母が手伝いでいてくれた。休みの日は朝昼晩きちんと食べた。仕事から帰ると美味しい晩ご飯が待っていた。その一週間、存分に食べた。一人でいる普段よりよほど豊かな食生活だった。きっと体重は増えたと思う。