東京タワーが完成した頃に生まれたP氏は、テレビなどのメディアを介して全国民が同じ文化を簡単に共有できるようになった時代にふさわしい感覚を身につけていた。

彼が憧れているのはX社が活動を始めた頃に放送が始まった『プロジェクトX』のような世界であるらしく、世に受け容れられやすい物語の型を自己流に再現してその主人公になるのが彼の譲れない夢になっていた。

しかし物語の完成を夢見て彼が躍起になるほど、実際にいる部下の心は彼から離れていった。彼が最初にAさんにデートの申し込みをしたのは九月十五日で、その頃から部下の女性たちは彼に対して従順な態度をとらなくなった。

自分の行為が原因だとは思わないのか、彼は思い通りにならない部下に対する不満を陰で繰り返し口にするようになり、ある日の夕方、「チェンジだ!」と私の前で叫ぶように言った。

今のメンバーを外して来年入社する新人と入れ替えるという意味で、いつもの衝動的な発言だと思い他の人には黙っていたが、職務より学園ドラマの模倣を優先する彼が人の採用を進めているのも私には恐るべき事態の一つだった。

それでも新人を集めているのだから来年度もこのチームはあるらしい、と私が一面で楽観しつつあった十二月一日、報告会の場でP氏がX社長から仕事の進捗の遅さを責められる一幕があった。

穏やかな口調で言葉を選びながら仲間であるP氏の責任を追及する社長の態度は、そうせざるを得ない状況が生じていることを示唆していた。