そこでどうしても早足になりセカセカと歩くと、春とはいえ背中が汗ばんできた。自転車で来れば良かったと思いつつ歩く。眼前に満開の桜が咲く公園が見えてきた。気持ちも急に楽になり出した。

「なんだ。意外と近いではないか」と思う。

公園に入ると紅白の幕が引いてある茶店が見えてきた。小腹も空いたし団子でも食 べようかと、外の縁台に腰をおろし「団子にアイスコーヒーください」と店の中を見ると、見慣れた人が団子を焼いている。

「あっ、鈴木さんが団子焼いているの」

町内の役員をしている鈴木さんが「山田さんいらっしゃい。私、団子係なんです。おいしい団子ですよ。ありがとうございます。回覧板見てきてくれたのですか」と言う。

賢治はテレビを見てきたとは言えず「ええ、どうも皆さんご苦労様です」と言ったが、賢治は今まで回覧板を見たことが一度もない。あれは奥さんが見るもので自分には関係ないものと思っていた。すると、茶店の奥から兜をかぶった武将が出てきた。見たことのある顔だなと思うが思い出せない。黙って見ていると、

「市会議員をしています岩瀬です。いつもお世話になっています。旧市内の市会議員が順番で大将をしています。あと1時間ほどしますと若い衆の武将隊が演技をしますからゆっくり花見をしていてください。コーヒーでなくてビールでもどうですか」と少し太めの声で案内を受ける。

「いえ、朝からビールはどうも。コーヒーでお願いします」と、なぜか恐縮する賢治。

 

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