【前回の記事を読む】ベッドとベッドの距離が近く、全員裸。——全てが「医療者」目線であり、患者の「意思」や「心地よさ」は無視されていた
第二章 未来
奈穂子が語り出した。
「透先輩は、すごく優しい人で。絵を描いてるだけでいいんだろうか。何か、人のためになることをしなくていいんだろうかって……」
「こいつ、何でもできちゃうから、迷うんだよね。何でも、どんな道に行っても、絶対大成するヤツだったのに……」
思わず言葉に詰まる水口。それは、まさ子の思いでもあった。
「本当に。でも、私、諦めてません。絶対に透は目を醒まします。そして、絶対によくなります。だから、これからも、友達でいてね」
まさ子がそう言うと、二人は力強くうなずいた。二人をエレベーターまで見送って帰ってきたまさ子は、透に語りかけた。
「みんな、あなたのことが好きなのね。いいお友達」
まさ子は透の手を静かに撫で続ける。
「……でも、弁護士になりたいなんて、そんなこと初めて聞いたわ。高校になっても健ちゃんと川遊びに出かけたのも、全然知らなかった。お母さんの知らない透がたくさんいるのね。目醒めたら、いろいろ話をしてね。お母さん、全部ちゃんと聞くからね」
(透を元の体に戻す。透の未来を取り戻す。そのために、全てを捧げて看病する!)
まさ子は覚悟を新たにした。
ふと、透の唇が動いたような気がした。
「透?」
まさ子は手を撫でるのを止め、その手を握りながら透の顔を凝視する。
「透?起きた?起きたの?」
やはり唇が動いている。そして、手にとっていた透の中指が、ピクンと痙攣した。
「透!」
まぶたが、まつ毛が、微かに揺らいだ。そして遂に、透は目を開けた。