「残りの人生が面白くなるわけがないでしょう」と自ら自滅の道を正当化する人。

「仕事も無ければ金もない、わずかな年金でケチケチ暮らし、特に何かを期待されるわけでもなく、誰かに頼りにされることもない」とぼやく人。

どんな生き方をしていても毎日情報だけは万遍なく提供されてくる日本は素敵な国です。

居間からテレビのニュースが流れる。

「今年の桜は例年より1週間ほど早く満開を迎えるようです。城山公園では地域おこし武将隊の皆さんが来園された方々に見せるパフォーマンスの練習です。……」と花見情報を伝えている。

パジャマ姿で起きてきた賢治は「おい、朝ご飯食べたら城山公園に花見に行ってくるわ」。

この時期、いつもの日曜日なら、朝ごはんの後に高校野球を見ながらゴロゴロしている主人に「掃除機の音がうるさい。テレビの音が聞こえん」と愚痴を言われている奥方。主人が散歩に出かける様子を見てほくそ笑む。

4年前に散歩用にと買ったスニーカーも真新しいままである。薄茶色の少し細めので高齢者には似合わないズボンと、緑系のチェックのカーディガンを白色のTシャツの上に羽織り、薄茶色のハンチングハットをかぶり片道3キロメートルほどの城山公園に出かけた。

賢治は今までこの公園まで歩いたことが一度もない。この町に引っ越してきてからもうかれこれ60年以上住んでいるのに、車で近くを通り抜けることはあったと思うが、普通に歩いていけば40分ほどで着くことが出来るのに歩いた経験がない者にとってはどれぐらいの時間がかかるか予想がつかなかった。