第6章 オープンコンペ
私は、夕食を共にした夜から、彼女を「桔梗」と呼ぶようになった。互いに何と呼ぼうかという話になって、私は彼女を「桔梗」と呼び、彼女は、私を「アキさん」と呼ぶようになった。名前は弘明だが、長いので下のほうのアキからそうなった。
あの晩は、いや、会ったときから桔梗の魅力に取りつかれたといってよい。あの夜は、なぜか、思考力が低下し、彼女を好きだという感情しか感じられなかったと思う。
そんなときは、後で冷静になったとき少し後悔するものだが、今の私は全く後悔などしていない。むしろこれから始まることへの興味と期待でいっぱいだった。
とにかく、彼女を知り、理解し私自身の将来を熟慮しなければならないと感じた。彼女が、ただの女性ではないのだから。もちろん彼女の能力と彼女に対する不安と畏怖はあった。
しかし、少しの怖さも桔梗という人間の魅力に比べたら大したことはない。桔梗と付き合うということが一種の冒険のように思えた。
それから3週間ほどして、私たちは、一度は行きたいと思っていたゴルフコースのオープンコンペに参加した。そのゴルフコースは林間でアップダウンの多いコースだ。
自分の所属クラブ以外で彼女と一緒にプレーするのは、初めてだった。
「コンペは何回か参加したの」
私は、所属しているクラブの月例の試合や、理事長杯などに参加していて、そのためにハンディキャップも取得している。
「内輪のコンペには参加したことがあるけど、知らない人と一緒のコンペは初めてよ。少し不安だわ」
「楽しんでプレーしよう。もし賞品がもらえたらラッキーだね」
そうは言ったものの、自分では、スコアが悪かったら恥ずかしいので、とりあえずきちんとしたプレーをしようと思った。
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