「信じられない話だね。桔梗さんを疑って悪いけど、科学的に無理だと思うのだけど」
「そうね。人間の世界の常識じゃありえないことよね。でも、科学では解明できないことなんて、いくらでもあるでしょう。
例えば、愛するっていう感情が生まれるときの脳のメカニズムなんて分からないでしょう。分からないけれど人を好きになるでしょう。
そのとき、脳がどんな風になったかなんて考えないでしょう。分からなければ、事実をそのまま受け入れるのが、合理的だと私は思うのよ。
つまり、私の能力について、科学的に説明するより、生活に生かすほうが、いいだろうということよ」
「そうなんだ」
こんな風に論じられると、私は、すぐに言葉を返すことができなくなる。話されたことを一度頭で整理して、理解してからでないと考えが浮かんでこない。理論的に桔梗さんの話にコメントできない以上、私は、ある感情を抱き、黙っているしかなかった。
「桔梗さんの能力って、すごいですね。僕は、あなたが好きです。一緒にいられて、何か役に立てたらうれしい」
桔梗さんは、ゆっくり私の手を握った。しなやかで長い指、白い肌。今度は、温かく優しい手だった。