【前回の記事を読む】ショットが素晴らしい上にプレーがきびきびしていて速い。――彼女のプレーはとても並みの女性とは思えなかった

第4章 ゴルフ

「太田さん、そろそろヒロアキさんとかヒロさんって呼んでいいですか」

「そう呼んでくれたら、うれしいな」

桔梗さんは少し考えると

「じゃアキちゃん、今度ゴルフのお礼に、うちで夕飯ごちそうするわ」

「やった。得意料理はなあに」

「和食だったら、菜の花の辛し和え。洋食だったら、牡蠣のグラタン。中華だったら、えーと、カップラーメンかな」

「ラーメン以外は季節外れじゃないですか。それに、ラーメンって中華なの」

「中華よ。ラーメン一緒にすすりましょ」

あの華麗なショットを放つ桔梗さんが私とラーメンを食べるなんて、なんとも素敵な提案だ。

第5章 桔梗の秘密

7月のある土曜日。

私は、白ワインを買った。桔梗さんのリクエストがあったからだ。ついでに花も買おうかと思ったが、やめた。その日は、ワインを飲むということで、バスに乗って行った。バスの中に花束を持ち込むほど大胆にはなれない。

彼女のマンションに着いて部屋に入り、ワインを渡した。

「ありがとう。冷やして飲もうね」

その日初めて彼女の部屋に入った。何もない部屋だなあと思った。食事のためのテーブルと、椅子が4つ。キッチンには調理用品と冷蔵庫。壁に妙義山を描いた水彩画。何も余計な物がないから、さほど広くもない部屋が、広く感じる。

エアコンが効いていたが、彼女は、冷たいタオルを出してくれた。私は遠慮なく顔と手を拭いた。バス停から少し歩いたので、汗をかいていた。汗を拭いた面を内側に折って、タオルを彼女に返した。

「顔を拭いて、サッパリ。いい男になったね」

「ありがとう。気持ちいいね」

「じゃあ、始めましょう」

初めに杏子のお酒で乾杯した。つまみは、青梅の入ったゼリーだった。梅はやや甘かったが、ゼリーは何かのリキュールの香りがした。彼女が作ったのだという。次に、サラダが出た。そして、焼いて冷やしたナスに甘めの味噌とチーズを乗せた料理と、温かいサーモンの料理が出てきた。ナスはニンニクの香りが少しあっておいしかった。

日本酒もあるといわれたが、ワインを飲むことにした。ややドライな白ワインは、和風の料理にも合うと自分では思う。サーモンは、オリーブオイルとハーブで焼いたようで、初めて食べた。ニジマスを使うことが多いが、スーパーになかったので、サーモンを使ったと言う。ブロッコリーとニンジンが添えられていた。

私は、今までに行ったゴルフ場のことや、教員としての仕事のことなどを話した。実家は 50キロメートルほど西の田舎町で、今の高校に配属になり、5年たつことも話した。

桔梗さんは、ゴルフを始めたきっかけを教えてくれた。テレビでプロの試合を見て、広々とした場所でプレーすることに憧れ、練習場に行ったのだそうだ。はじめは職場でゴルフ好きの上司に教わったのだという。

しかし、そのうちその人が柏市に転勤になり、彼女は、スクールに入った。40歳くらいのティーチングプロに教わるようになったが、体に触られるのが嫌で、私の行く練習場に通い始めたのだった。