【前回の記事を読む】「私ね、悪意があって悪いことした人には、相応の報いがあっていいと思う」彼女は美しさとは裏腹に、過激な論を語り出し…

第4章 ゴルフ

桔梗さんは自分のボールのところに行く前に、アイアン2本と、ユーティリティーと呼ばれるクラブを右手に、砂の入った袋を左手に持った。

この砂はショットで削られた芝の跡にかぶせるためにある。削られた部分を適度な温度と水分が供給される状態にして、芝が発芽しやすくする。この作業を「目土(めつち)」をするといい、目土はたいていのゴルフコースに備えられている。

桔梗さんは、梅原さんが第2打を打つのを待っている間、芝の削られた部分を目土で埋めた。ショットにより削られた芝の塊をディボット(divot)、芝の削られた部分をディボット跡という。

桔梗さんは、さらに自分のショットの後も、少し掘られた芝の上に、目土をした。私が打とうとすると、動きを止めじっと見ている。

私は、第2打を少しダフッた(ボールの手前を打つことで、ボールの飛距離が出なくなる)ので、ボールはグリーン手前に落ちて止まった。第2打をグリーンに乗せた桔梗さんは木下さんと梅原さんに称賛された。

そのホールは、結局私と桔梗さんがパー、梅原さんボギー、木下さんダブルボギーだった。私は、グリーン近くから寄せてパーを拾ってなんとか面目が立った。

木下さんが、カート上で聞いた。

「深沢さんは、相当マナーに厳しい方に教わったようですね」

「目土するからですか」

「はい。それと、打った後、カートに戻るとき速いでしょう。素晴らしいことですよ。相当な腕前の紳士のプレーを見習ったのではないですか」

「そんなこともないのですけれど。褒めてくださって、ありがとうございます。実は、ゴルフの手ほどきをしてくださった方が、ゴルフ場に感謝してプレーしなさいってよく言っていたものですから。目土と、グリーン上でのボール跡の修復は心がけています」