【前回の記事を読む】ゴルフ場で急接近した彼女を車で迎えに行くことに。こんなことが起こるなら、奮発して高級車を買っておけばよかった…
第4章 ゴルフ
「でも、事故に巻き込まれなくて、よかったよ」
「そうよね。でも、距離があったし。私ね、悪いことした人が、報いを受けることってあっていいと思うのよ。さっきの車の運転手はまるで道路が自分一人のものであるかのような運転をしていましたよね。あんな危険な運転をして周りの運転者に怖い思いをさせて許せませんよ。厳しい言い方だけど。日本じゃ、悪いことしても、半分も報いを受けないことが多いと思うの」
「例えば、どんなこと」
「例えば殺人。何の罪もなく殺された人に対して、殺人者の報いなんて、軽いものだと思わない。それから、DVの被害者の苦痛に対して、加害者の受ける罰。たいてい力の強い男性が女性に対して暴力を振るうけれど、肉体の痛みと精神的苦痛に比べたら、加害者への罰なんて屁みたいなものよ」
言っていることは辛らつだ。しかし、桔梗さんは冷静に話す。
「私ね、悪意があって人が嫌がることをしたら、相応の報いがあっていいと思う」
美しさとは裏腹に、桔梗さんの論は過激だと思う。その発言が、かなり冷静な言い方なので、説得力がある。私は、反論はしなかった。これからの楽しいゴルフの前に、何も論争することはないのだから。そして、私も桔梗さんの言い分には共感できたから。『屁みたい』とはこの人が使う言葉としては面白い。
間もなくゴルフ場に着いた。
車をクラブハウス前につけると、ゴルフ場の女性と男性がトランクからキャディーバッグを取り出した。私が、車から降りて、バッグを取ろうとすると、桔梗さんは、車から降りた。従業員二人に朝の挨拶をすると、私たちのバッグを、車から運び出した。