「バッグ運んどくね」

と言うと、クラブハウスに入っていった。

その日は、私たち二人と、クラブの会員の木下さんと梅原さんの四人でラウンドした。私は、二人とも月例の競技会で何度か一緒に回っていてよく知った仲だった。

木下さんは、優しい人だ。

「深沢さんとは、初めてですよね。よろしくお願いします」と挨拶した。一方梅原さんは、「太田さん、今日は彼女と一緒で力が入るね。深沢さん、楽しくラウンドしようね。俺、下手だからボール探しも協力してちょうだいね」

相変わらず気さくだが、よく初対面の人と、ああも馴れ馴れしく話せるものだ。

私の自慢は、このクラブで、理事長杯という競技で一度優勝したことだ。クラブには3大競技というのがある。『クラブチャンピオン』『理事長杯』『シニアチャンピオン』といわれる競技会だ。私の名前は、クラブハウスの壁に、歴代チャンピオンに伍(ご)して掛けられている。

なんとか、桔梗さんがその名前を見つけ出してくれるとうれしいのだが。自分から案内して見てもらうのでは、品がない。木下さんか梅原さんが案内してくれると幸せなのだが、期待はできない。

スタートホールのティーイングエリアに立った。ティーイングエリアというのは18ホールそれぞれのプレーをスタートする場所のことだ。第一打は少し緊張する。緊張することも自分にとっては、楽しみの一つだ。