【前回の記事を読む】「本当のことを話すから、きちんと聞いてくれる?」――初めて彼女の部屋に入った日。彼女がそっと私の手を握ってきて…

第5章 桔梗の秘密

「私は、あなたときちんとしたお付き合いがしたいの。結婚も考えたいと思っているのよ」

驚いた。私は、小さく息を吐き出しながら桔梗さんの目を覗き込んだ。こんなときは、何も言わず、話を聞くことがよいと思った。

本音を言えば、目の前にいる女性から、こんなことを言われて驚くとともに、欣喜雀躍していた。

「こんな申し出をされて、驚いているでしょう。第一、お互いの年齢も知らない。普段の生活も育った環境もろくに知らないで、なんてことを言い出すのだと思うでしょう」

「いやあ、ちょっと驚いたけど、桔梗さんの言葉は、とってもうれしいですよ」

「そう、ありがとう。でも、ここから先が大変なのよ」

眉目秀麗で品性高潔。私にとっては、雲の上の人に思える女性が、自分と付き合ってくれる。何が大変だろうと、万難を排して希望に沿うようにする決意はある。と、そのときは思った。

「実は、この前ゴルフに行ったとき、車の事故があったでしょう。あれ、私が起こした事故なの。あの車の運転手が、あまりにも乱暴な運転をし、我が物顔に道を走っていたでしょう。私、あの車が故障するようにしたの」

「そんなことができるの」

「私、ある部分の空気の温度を冷やすことができるのよ。それも急激に、零下40度くらいに。それと雪を降らせることも。

この前、あの車が、私たちの車の前に割り込んで、こっちが事故りそうになった後ね、あの車の電気系統を氷と低温で故障させたの。

車は、エンジンが止まってしまったのよ。もちろん周りの車にとばっちりがいかないように考えたわよ」