しかしながら、不思議なことに、馬齢を重ねるにつれてその曲に対する思いが徐々に変化し始め、ほんの少しずつではありますが、エレジーという言葉の持つ妖しげな雰囲気を醸し出すその歌が、私の耳や体に馴染み始めたような気がしてなりません。
その昔、居酒屋のイメージといえば、場末のあか抜けない場所に灯る赤提灯のイメージが手伝ってか、若い女性にはまったく似合わないというほの暗いイメージがあったような気がします。南こうせつの歌った「あかちょうちん」の醸し出す哀切の詰まった雰囲気は、昭和時代と共に遠く過ぎ去ってしまっていくようです。
元号が、昭和・平成を経て令和になった現在、吉田類氏や太田和彦氏らによる居酒屋紹介の番組がTVにて頻繁に紹介されています。
私自身もそれらの番組のおっかけとなり、居酒屋を日本の文化として広めた太田氏の書いた居酒屋紹介の本なども進んで読むようになっています。
その太田氏による居酒屋紹介の本は、資生堂のデザイナーとして培ってきた審美眼および鋭い感受性と該博な教養に裏付けされており、多くの読者の共感を勝ち得ているようです。太田氏は、『東京エレジー』と題する本を出版しています。
本のなかには、哀愁漂うほろ苦い太田氏の青春時代がてんこ盛りで、「エレジー」という言葉の背景にある哀感がしみじみと表現されています。
仮に、太田氏に倣(なら)って私自身のエレジーが書けるならば。もちろん、そのようなだいそれた思いは有しておりません。
過ぎ去った一時代におけるインドシナを背景とした私的な物語を、現在の若い人に少しでも味わっていただければとの思いで、脳裏から今にも消え入りそうな朧(おぼろげ)な記憶を辿りつつ、そこでの思い出話や出会った人たちの断片などを書きとどめておくこととしたのです。
そのほか、過去に書き留めておいた文章も推敲(すいこう)し、それらを纏(まと)めた上でエッセイ集として上梓させていただきました。
数年前『タイの微笑 バリの祈り』というタイトルの本を出版していますが、その続編としてこのエッセイ集をお読みいただければ、大変ありがたいと存じます。
柴田和夫
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