おとうさんはさらにおしゃべりになった。右手でハンドルを操作しながら、左手でバッグの中から一枚の写真を取り出した。

「見なさい。芸術家の岡本太郎(おかもとたろう)が価値を再発見した火焔型土器(かえんがたどき)。日本の原始美術を代表する美。エネルギーに満ちあふれてるじゃないか。エネルギーそのものだ。越(こし)の縄文人(じょうもんじん)のエネルギーだ」


おかあさんが笑いながらとめた。

「わかったわよ。おしゃべりもいいけど、安全運転でお願いします」

おとうさんも笑っていた。

小出(こいで)インターチェンジで、高速道路を降りて、十七号線を新潟方面に向かった。小出(こいで)市街をしばらく走り、途中(とちゅう)で右折して谷川沿いの道に入った。

右手には八海山(はっかいさん)、中ノ岳(なかだけ)、越後駒ヶ岳(えちごこまがたけ)からなる越後三山(えちごさんざん)をふくむ越後山脈(えちごさんみゃく)が並び、まだ残雪におおわれていた。

いくつかの集落を越(こ)え、峠(とうげ)を登ると深い山々(やまやま)に囲まれた鏡ヶ池(かがみがいけ)が、深い青緑色の水をたたえていた。白い雪とブナの新緑(しんりょく)のコントラストが美しい。峠(とうげ)を下りた谷間におじいちゃんの家がある。

おじいちゃんは満面に笑みをうかべて、三人を迎(むか)えた。座る間もなく着替(きが)えをすませて、山菜とりに出かけた。まだ午前九時三十七分だった。

 

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