連休後の第二土曜日から日曜日にかけて、波奈は両親と新潟を訪れた。
今年は連休中、両親ともに教え子の結婚式(けっこんしき)やクラブ活動などがあって、新潟に行けなかった。だから、毎年恒例(こうれい)の山菜とりができなかったのだ。
波奈も両親も、山菜とりが大好きだ。この季節に、新潟に行かないとストレスがたまる。土・日の一泊二日(いっぱくふつか)のあわただしい日程であったが、それぞれが都合をつけた。
土曜日は朝五時に起きた。朝食は車の中ですました。波奈は眠(ねむ)かったが、気持ちはたかぶっていた。
おとうさんは運転しながら、おかあさんからおにぎりを受け取り、食べおわると、おかあさんは手ぎわよくおしぼりをおとうさんに渡(わた)していた。二人ともうれしそうだった。
午前八時には関越(かんえつ)トンネルを抜(ぬ)けた。季節が二週間ぐらい前にもどった気がした。まだ雪が残っていて、木々(きぎ)の芽もつぼみのまま。
波奈が思わず口にした。
「いいなー、タイムマシンで時間を逆もどりしたみたい」
おとうさんも楽しそうに言った。
「そのとおり。この車はタイムマシンです」
おかあさんもニコニコしながら言った。
「二人ともはしゃいじゃって。山菜とりに興奮するなんて、まるで縄文人(じょうもんじん)みたいね」おとうさんはおごそかな口調で言った。
「そうです。私たちには、縄文人(じょうもんじん)の血が流れているのです」