第1章 予兆(よちょう)
1 不思議な発明
秋が深まり、イチョウの葉が輝くような黄色になった、ある土曜日の朝のことだ。川越市のカルガモ小学校三年生の星野波奈(ほしのはな)は、電話の呼び出し音で目が覚めた。
時計を見ると、まだ六時になっていない。だれも出ない。しかたないので一階に下りて、居間の電話の受話器を取り上げた。
「波奈、すごいよ! 眠っているうちに、本が読めてしまう装置を発明したよ」
「ほんと?」
「今すぐ、そっちへ行くよ」
波奈が返事をしないうちに、電話は切れてしまった。
「だれから?」
眠そうな顔をして、おかあさんが居間に入ってきた。
「おじいちゃんが来るって」
「どうしたの?」
「眠っているうちに、本が読める装置を、発明したんだって」
おかあさんは、首をかしげた。あまり本気にしていないみたい。
「波奈ちゃん、おはよう」
玄関から声が聞こえた。波奈とおかあさんが、迎えに出ると、何か箱のようなものを持ったおじいちゃんが、うれしそうにニコニコしていた。
「ほら。これだよ。すごいぞ」
おじいちゃんは箱を開けた。中から、丸くピカピカ光る、銀色のお皿の形をしたものと、
緑色のメガネが出てきた。
「このお皿に本をのせて、このメガネをかけて寝ると夢の中で、本が読めるんだよ。すごいだろう」