第1章 予兆(よちょう)

1 不思議な発明

水の中ならたおれる心配もない。赤や青、黄色の魚が、たくさん泳いでいた。とてもきれいだった。海の底には、ヒトデやカニもいた。上のほうからは、明るい光がゆらゆらさしこんでいた。

「波奈ちゃん、のぼってみよう」

光はどんどん明るくなった。水面から顔を出すと、近くに、陸地が見えた。白く輝(かがや)く砂浜(すなはま)と、緑の森が見えた。

「行ってみよう。探検だ」

砂浜(すなはま)にあがると、近くに大きなシダが、たくさん並んで、森のようになっていた。道はないが、シダの下の地面は、コケでおおわれていて歩けそうだった。入り口あたりには、白い花が群れて咲(さ)き、とてもいい香りがただよっていた。

「マグノリアだ。コブシの仲間」

「さあ、森の中に入ろう!」

わくわくドキドキ。波奈はおそるおそる、シダの森に入った。コケにおおわれた地面は、フワフワとやわらかだった。しばらくすると、

「ギャー、ギャー」

近くで何かが叫(さけ)んだ。

波奈が声のするほうを見ると、シダの葉のすきまから、大きなキョウリュウの背中が見えた。

「あそこよ!」

波奈が、小さな声で叫(さけ)んだ。

「どこ、どこ?」

おじいちゃんも気づいたようだ。

「ティラノサウルスだ! 逃(に)げよう! そっと、静かにね!」パキッ!波奈が何かをふんづけてしまった。

ギャー。キョウリュウが叫(さけ)んだ。

「気づかれた! 逃(に)げろ!」

二人は急いだ。やっと、浜砂(すなはま)に出た。

「波奈ちゃん走って! 海の中に、逃(に)げるんだ!」すぐ後ろに、キョウリュウが迫(せま)ってきた。

ドタドタ、バキバキ、ギャー。

「危ない!」

おじいちゃんが叫(さけ)んだ。キョウリュウが大きな口を開けた。するどい歯と、のどの奥(おく)が見えた。そのとき大きな波が、ざぶーんと、二人を飲みこんだ。青色のメガネがはずれた。

波奈は目をつむった。ふと、にぎやかな話し声が聞こえてきた。おそるおそる目を開けると、二人はデパートの階段わきの長イスに座っていた。不思議なことに、二人ともぬれていなかった。

「波奈ちゃん。だいじょうぶかい?」

「うん」

帰りの電車の中で、波奈はグッスリ寝(ね)てしまった。家に着くと、おかあさんが門の前で待っていた。「楽しかった?」波奈はおじいちゃんと顔を見合わせ、少し考えてから返事をした。

「うん。楽しかったよ」