第1章 予兆(よちょう)
2 ヒメの予知
おじいちゃんは空に向かってパンを放った。木の枝に止まっていたヒヨドリが、ツイーと飛んできて、じょうずにキャッチした。
食パンがなくなると、おじいちゃんは宣言した。
「もう、おしまい。解散」
カモたちはおしりをふりながら、ヨチヨチと池に帰っていった。おじいちゃんはリュックサックの中から、白地に緑のもようが入った小さな小石を取り出した。
「これが、新しい発明品だよ」ニコニコしながら、波奈の手のひらに小石をのせた。すると、小石は一瞬(いっしゅん)すきとおり、まわりの風景がゆらゆらとゆれた。
どこからか美しい声が聞こえてきた。
「いらっしゃい、波奈ちゃん。星野博士、お久しぶりです」
「おお、ヒメか。元気じゃったかのお」
「星野博士もお元気そうで」
波奈にはヒメと呼ばれた者の姿は見えなかったが、だれかがいることを感じることはできた。
「波奈ちゃんも大きくなりましたね」
「そうそう。この前連れてきたのは小学校にあがる前だったからね。谷のみんなは、たっしゃかのお?」
「闇(やみ)の者たちとの戦いが続いているので、なかなか大変なようです」
「そうじゃのお。人の心から、闇(やみ)はなくならないからのお」
「戦いは永遠に続くのでしょうね」心にしみとおるような声には、悲しみがこめられているようだった。
「ヒメもいずれ、戦いにもどるのでしょうな」
「はい。覚悟(かくご)はしております」
「この子もじゃ」
「はい。私には見えております。波奈ちゃんが三人の勇士たちを引き連れてやって来る姿が。ふふふふふ」
「どうしたのじゃ?」
「この園内に、今、もう一人いますよ。本人は気づいていませんが、この子と三人の勇士たちの守護神(しゅごしん)となる者が。おやおや、目を丸くして、キョロキョロまわりを見回しているわ。それでは、星野博士、またお会いしましょう」
波奈は何もわからず、何も言えずに、ただ二人の会話を聞いていた。まわりの木々(きぎ)が、また少しゆれた。月曜日の昼休み、波奈はぼんやりと教室の窓から外を見ていた。ひょうたん池のまわりの野原で起こったできごとを、思い出していたのだ。
(あれって、なんだったんだろう。夢かな)