ちょうどそのころ、同じ市内にあるカワセミ中学校の理科準備室で、一人の教員が外を見ていた。名前は藤山修司(ふじやましゅうじ)。中学校の教員になって三年め。理科を教えている。

いつも、大きな体を折り曲げて、子どもたちと目を合わせ、ジョークをとばしている。子どもたちにも好かれている。机の上には植物図鑑(ずかん)が開かれていたが、目は窓(まど)の外を見ていた。ひょうたん池公園で見かけた老人と少女のことを、思い出していたのだ。

少女は小学三年生くらい。明るく、はなやかな雰囲気(ふんいき)に包まれていた。老人は丸い小さなメガネを鼻にのせ、ニコニコとほほえんでいた。

二人はカモやヒヨドリと遊んでいたが、その後、不思議なことが起こったのだ。

二人が急に消えてしまったのだ。

一月の初めごろ、修司はまた、ひょうたん池公園に出かけた。

植物園側の入り口を通って、緑の相談所のわきに出た。視界が急に開け、五メートルほど下に広場が見えた。修司は左にある木々(きぎ)の間の小道を下りた。

ボケのオレンジ色の花が咲(さ)いていた。コブシのつぼみは、まだあたたかそうな毛皮に包まれていた。あたり一面、ロウバイの甘(あま)い香りがただよっていた。

ロウバイの木立(こだち)の向こうには広場があった。木々(きぎ)の間から、広場に置かれた立方体の岩のモニュメントも見えていた。

修司は広場の手前で立ち止まった。一人の女性がモニュメントに近づいてくるのが見えたからだ。黒い長い髪(かみ)が風にゆれ、一瞬(いっしゅん)であったが修司は岩に向けられた女性のきびしいまなざしを見ることができた。

その女性が手をのばし、モニュメントの岩にふれたとたん、女性の姿が消えた。修司は心の中で叫(さけ)んだ。

(まただ! 目の前で、また人が消えた)

 

3 九頭龍伝説(くずりゅうでんせつ)

修司は川越(かわごえ)市のコブナ図書館で調べ物をしていた。ひょうたん池公園で、不思議な光景を二度も見たからだ。

手がかりはないが、ひょうたん池の上流にある小さな池の名前が気になった。九頭龍池(くずりゅういけ)。まず、「九頭龍(くずりゅう)」について調べることにした。

調べてみると、九頭龍伝説(くずりゅうでんせつ)が日本の各地にあることがわかった。言い伝えもさまざまだった。

九つの頭と龍(りゅう)の尾(お)を持った巨人(きょじん)、大蛇(だいじゃ)、鬼(おに)などで、はじめは人々(ひとびと)に恐(おそ)れられ悪さをするが、最後は人々(ひとびと)を守る神になって、まつられるという話が多かった。

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