【前回の記事を読む】「タイムマシンで時間を巻き戻したみたい」——両親と山菜とりに訪れた新潟。トンネルを抜けた先に見えてきたのは…
第3章 目覚めた勇士
2 送られてきた小包
おじいちゃんの田んぼは沢沿(さわぞ)いにあった。まだ残雪が、ところどころ川をおおっていた。
沢(さわ)をはさんで田んぼの反対側は、けわしい岩の斜面(しゃめん)だった。長い年月をへて、草木が生え、岩の上に土をとどめていた。
そんな場所がゼンマイの生育には適していると、おじいちゃんから教わった。
「みんなは危ないから、下のほうでとっているんだよ」
おじいちゃんは木の枝をたくみに使いながら、急斜面(きゅうしゃめん)を登っていった。おじいちゃんはときどき下に下りてきた。リュックサックにいっぱいになったゼンマイを、車のトランクに移すと、また、谷の斜面(しゃめん)を登っていった。
おかあさんは谷川沿いに生えているゼンマイをとった。おとうさんは少し上まで登った。
波奈はおとうさんより高いところまで登った。両親より身軽だから。アスレチックのように楽しめた。
「おおーい。そろそろ帰るよ。下りておいで」
おじいちゃんの声が谷間にひびいた。波奈は気をつけながら、谷の斜面(しゃめん)を下りた。登るときより下りるときのほうが危ないと、おじいちゃんに教わったから。
とったゼンマイの重さが、自分の重さに加わっている。手足の筋肉も疲労(ひろう)していた。気をつけていたつもりだったが、波奈はすべった。
でも、幸運だった。もう少しで谷底へ落下、と思ったときに、何かが波奈を受け止めた。それはやわらかだった。次の瞬間(しゅんかん)、波奈は右手で、しなやかな木の枝につかまっていた。