【前回の記事を読む】授業参観に初めて親が来なかった…その理由は「急に忙しくなったから」と説明していたが、それは嘘で…

第三章「一筋の涙」

部活が終わって自宅の玄関を開けると、僕のお母さんはカンカンに怒って玄関に突っ立っていた。隼人のお母さんから電話があって、今日が授業参観だということを聞いたらしい。その後、僕の部屋のごみ箱にあったぐしゃぐしゃになった『保護者へのお知らせ』を見つけたという。

本当のことを言えばきっとすぐにお説教は終わったと思うけど、クラスの女子のために秘密にしていたことを話すのは思春期の僕にはハードルがとても高かった。

中学生になっても親が授業参観に来るのが恥ずかしいと思ったから、なんて適当な理由を言ったから余計に怒らせてしまったけど、雪野さんの笑顔を見てから僕のもやもやしていた気持ちはすっかり晴れていた。

 

「雫ちゃんと何かあった?」

最近、隼人からよくこの質問をされる。

「んー、何かって?」

「だからその何かを聞いてるんだって」

僕の机にもたれかかって、怪訝そうな表情で顔を覗き込んでくる。隼人が言うには、最近の雪野さんは僕にだけ『トクベツ』心を開いているらしい。

何かと言われれば、二か月ほど前の授業参観のことが頭をよぎるけど、そのあとに文化祭もあったからクラス委員の僕と隼人は必然的に書記の雪野さんと接する機会は多かった。文化祭委員の拓也だってそうだ。

それに、以前はクラスの端っこの方で物静かに過ごしていた彼女も、文化祭の準備をしているうちに、目立つタイプの女子たちともときどき話すようになっていた。だから隼人がいうような『トクベツ』を僕自身は感じたことがない。

それに、もし授業参観の日の出来事がそうだとしても、お母さんが亡くなっていることを言いふらすようで、いくら僕と隼人の仲でも言わない方がいいだろうと思っていた。何かのきっかけで知るところになったとしても、僕の口からというのは彼女も望んでいないだろう。

「だって宿題の相談はいつも透にしてるし」

「それは隼人が宿題やってないことを知ってるからだろ」

「それに委員会の相談だって透とばっかりだし」

「それも隼人がふざけるのをわかってるからだろ」

「……雫ちゃんからの俺の印象悪くない?」         

「だったらもうちょっと真面目にすればいいだろ」            

そんなやり取りをしていると、隼人もこの話題に関してそれ以上は追及してこないようだ。

「まあいいや。でも抜け駆けはやめてくれよ」

「はいはい、わかってるよ」

僕にとっての雪野雫さんは、クラスメイトの一人で、委員の仕事でちょっとだけ接点があって、落ち込んでいたり悩んでいたりするときは助けてあげたい、そんな女の子だった。