【前回の記事を読む】学校から帰ると、玄関には怒った母が…部屋のごみ箱に丸めた、あの白い紙が見つかってしまった。

第四章「何もない」

彼女がこういった話をしているのは三年間一緒にいても聞いたことがなかったから、興味がないんだろうなんて感じていたけど、楽しそうにしているのを見ると、やっぱり女の子なんだなと思う。

「雪野さん、隼人はどうなの?」

「佐竹くん?」

「──おい、拓也」

さすがに本人に聞くのはまずいだろうと思い制止するが、彼女はきょとんとしている。何のことを聞かれているのかわかっていないらしい。

クラスが離れてからも熱烈なアプローチを受けているにもかかわらずこの様子では、ちょっと隼人が不憫な気もする。雪野さんはいわゆる恋バナには興味があっても、自分に向けられた好意には鈍いらしい。

「あー……隼人、最近塾で勉強頑張ってるみたいで」

ちょっと苦し紛れだがなんとか話題をそらす。

「そういえば最近図書室で見かけないね」

きょろきょろとあたりを見渡しながら言う。

「そういえば、透と隼人って雪野さんと志望校一緒なんだっけ?」

「え? 黒田くんたちも東銘高校なの?」

「第一志望はね。でも偏差値ギリギリ」

「黒田くんと佐竹くんと同じ高校に行けたら心強いな。一緒に頑張ろう」

小さく胸の前でこぶしを握って、彼女は嬉しそうにしている。隼人も第一志望は僕と一緒だけど、悠人と拓也は別の高校を志望しているから、僕にとっても親しい人が同じ高校なのは心強い。

三人でひとしきり進路の話とか、勉強の進捗なんかを話していると、見回りの先生がやってきた。

「そろそろ下校時刻になるぞー。あとは家に帰って頑張ってくれ」

いつのまにかだいぶ時間がたってしまっていたようで、図書室以外の教室の電気はすでに消されていた。学校に残っているのはもう僕たちだけらしい。窓の外も真っ暗だ。

「──え? もうそんな時間?」

雪野さんは慌てた様子で時計を見る。

「引き止めちゃってごめん、何か用事があった?」

そわそわしている彼女が心配になって不安そうに顔を覗き込む。

「あ、ううん。近くの八百屋さん、もう閉まっちゃうなって思っただけ。今日はまだ残りものでなんとかなるから大丈夫」

「え? 雪野さんがご飯作ってるの?」

驚いたように言う拓也の言葉で、雪野さんの家の事情を思い出して申し訳なくなってしまう。恐らく拓也は彼女のお母さんが亡くなっていることは知らないはずだ。彼女はそういう自分の話を積極的にするようなタイプではない。

「えっと……私、お母さんが小さいころに死んじゃって……お父さんは仕事で帰りが遅いから、平日は私が夕食当番なの」

「……そう、だったんだ」

あの日の僕と同じように、拓也も返す言葉が見つからず、複雑な表情で沈黙になる。

「あ、そんな顔しないで。寂しいのはもちろんあるけど、お父さんがいてくれるし、それに私料理好きだから」

「……全然知らなかった。大変なんだな」

「何か僕……いや、あんまり無理しないでね」

「ありがとう、でも本当に大丈夫だよ」