【前回の記事を読む】朝から暗い顔の担任が、クラスの女子の欠席を告げた。…その後すぐ、近隣の家が火事で、死者が出た噂が流れてきた。

第四章「何もない」

「……知ってるのか?」

「──拓也、ごめん。次の授業に遅れるって先生が来たら言っておいて」

「……わかった」

「え? どうしたんだよ、とお──」

強く隼人の腕をつかみ、僕は全力で走り出していた。困惑しながらも隼人は僕の様子にただごとではないと悟っていた。

「……もしかして、一組の?」

「……雪野さん、今日来てない」

「──え?」

立ち止まりそうになる隼人の腕を再び強く引き、息を切らしながら僕は続ける。

「さっき、先生が。しばらく来れないって、理由は、聞いてないけど」

「嘘……だろ」

先生は確かに雪野さんは「休む」と言っていた。でも、隼人の言っている今朝のニュースでは誰かが「亡くなった」と言っている。考えたくはないが、ひどく嫌な予感がする。

動悸がして胸が苦しい。

「なあ、嘘だろ!」

強い口調で僕を責めるように言う隼人は、唇を震わせ、涙を浮かべていた。

「わからない! 僕だって嘘だって思いたいよ! だから先生のところに……」

これ以上、言葉が続かなかった。全力で走っているせいなのか、不安と恐怖で胸が締め付けられそうになっているからかわからない。

一階まで下りて職員室の前でほんの少しだけ息を整え、震える手を無理やり押さえつけてドアに手をかける。

「──石川先生」

その声に石川先生と教頭先生が振り向く。ほかの先生はもう授業が始まるからか職員室にはいなかった。

「黒田くん、それに佐竹くんまで。もう授業が始まるでしょ、教室に戻りなさい」

先生がそう言うのが先か、同時か、隼人がぼろぼろと泣き出した。

「……あの、昨日火事があったって。それってもしかして」

引きつった顔で、石川先生は教頭先生に確認するように視線を送る。教頭先生が小さく頷くと、先生は僕たちの方に向き直り、まっすぐ視線を合わせる。

「もうニュースにもなっているから、あなたたちの耳にもすぐに入ると思うけど、昨日雪野さんのご自宅が火事になったの。雪野さんは今病院にいるけど、軽いやけどで済んだと聞いているわ」

その言葉に全身の力が抜けて、ほっと安堵の胸をなでおろす。隼人も安心したせいだろう、声を上げて小さい子供のように泣きじゃくっていた。

「……ただ」

再び空気が凍り付く。そして先生は深く息を吸って言葉を続ける。