【前回の記事を読む】近所の火災で犠牲者が出たと聞いて、嫌な予感はしていた…先生は暗い顔で、クラスメイトの欠席を伝えた。

第四章「何もない」

また涙があふれそうになるのを必死で我慢する。最後にお母さんに泣いているのを見られたのは小学校の高学年のとき以来だったと思う。僕も少し大人になったから心配をかけたくなくて、大声で泣き叫びたい気持ちをぐっとこらえていた。

死というのはずっと他人事だった。ニュースで誰かが亡くなったと聞いて悲しい気持ちになることはあっても、どこか遠くの知らない人のことで、ピンときていなかった。それがクラスメイトが昨日話してくれたお父さんで、そのクラスメイトにはもうお母さんもいない。

彼女は今一人ぼっちだ。今彼女はどうしているだろう。寂しくて、悲しくて、怖くて仕方がないと思う。

彼女のことを思うと、いてもたってもいられない衝動が押し寄せてくるけど、中学三年生の僕は本当に無力で、できることも、かける言葉も何一つ見つからない。そんなちっぽけな自分が情けなくて、もどかしくて、部屋に戻って一人でひっそり涙を流すことしかできなかった。

 

今年の冬はいつにも増して冷え込む。都心でも数十年ぶりに二十センチを超える積雪を観測して、三学期が始まったこの日も歩道にはうっすらと雪が残っていた。高校受験までいよいよラストスパートとなり、授業はほとんどが自習だ。

各々自分の苦手教科を復習したり、繰り返し志望校の過去問を解いたりしている中、僕はこの日も空席になっている雪野さんの席が気になって仕方がなかった。

冬休みが明けたらきっと学校に来るから、そのとき雪野さんに声をかけようと思っていた。

「はい、では今日はここまで。みなさん受験まであと少しですから、体調管理もしっかりしながら頑張ってくださいね」

「起立、礼」

『さようなら』

いつもだったらホームルームのあとは騒がしくなるこの教室も、すぐに静まり返る。教室に残って勉強の続きをする人、足早に図書室に向かう人、帰宅して塾に向かう人、みんな受験のことで頭がいっぱいだ。

「透、今日は図書室に行く?」

「んー、ごめん。ちょっと先生に用事があるから先に行ってて」

「そっか、じゃあまたあとでな」

そう言うと拓也も荷物をまとめて足早に教室をあとにした。拓也を見送ってから、僕は四組の前を通って教室を覗いて見たが、隼人の姿はなかった。