【前回の記事を読む】「明日にも逮捕か」の前撃ち報道は「逃走してください」というようなもので、捜査に大ダメージを与えてしまう
第一章 国家的プロジェクト
一 裏利権
ここでスタジアム建設地の東海県遠州市について説明しておく。
地元では昔からこれといった産業もなく、半農半漁ののどかな田舎町であったが、昭和四〇年代から大手自動車会社が進出し、さらに製紙工場、鋳物工場が進出し、軒並み大工業地帯が形成され、昼夜休むことのない労働者目当てに風俗店、パブスナック、パチンコなどのレジャー産業も加わり、東海県有数の歓楽地帯が形成された。
バブルの崩壊から急速に客足も途絶え始め、芸者置屋、ソープ系風俗は影を潜め、夜の街は閑古鳥が鳴くほどであった。
街自体が混沌として、明るい話もない中、降って湧いたような格闘技専門のスタジアム建設計画は遠州市のみならず東海県においても多大な経済効果をもたらすプロジェクトであることには変わりなかった。
当然裏利権が生まれるのは自然な話で裏利権に群がる反社会的勢力は濡れ手に泡の莫大な利益を目論んであらゆる工作に参画していくのである。
まず行動を起こしたのが似非同和団体である。
工事の主体は、一般競争入札で落とした大手ゼネコン「大日本建設」となる。
文部科学省が現実には発注元となるが、同省が所管する独立行政法人名で正式に発注されている。
似非同和団体は「同和黎明同志会」と名乗り、文書を文部科学省担当部署、大日本建設に郵送で送りつけてきたものである。
内容は、「貴殿らは、同和黎明同志会所有の土地を無断で道路化を企図しており経緯について説明を求める」といったもので、東京都内の住所地が記載されていた。
さらにこれと時を同じくして右翼団体・日本皇道塾が街宣車一〇台をもって、「スタジアム建設賛成、反対派糾弾街宣」の公安条例による届出が所轄遠州警察署になされた。
日本皇道塾は東海県内では最大の構成員、街宣車を持つ民族派右翼団体で、指定暴力団正剛会と密接な関係がある組織と警察当局は把握している。
さらに正剛会は不良連中のケンカ自慢を集めて「金網デスマッチ」と称するルールなしの殴り合い、いわゆる地下格闘技を主宰する裏利権を持ち、プロモーターとして暗躍し収益を上げているとの情報もある。
スタジアム建設を巡って風雲急を告げる遠州市の治安情勢を鑑み、所轄遠州警察署、東海県警察本部刑事部においては、刑事部長 警視正 高木信玄をトップに、「指定暴力団正剛会壊滅対策本部」を遠州警察署に設置し、スタジアム建設に伴う各種違法行為の徹底検挙と関連住民の保護の二点に重点を置いた取締り活動を推進する体制を構築し、マスコミは大々的に報道した。
特に地元紙で圧倒的な購読数を保つ葵日報新聞社は社会面を大幅に使い、スタジアム建設賛成の立場で経済効果を地元大学教授に算出させるなど誘致の必要性を取上げていた。