(……今日も塾かな。一人で行くか)
職員室に向かう途中で、ほかのクラスの生徒に声をかけられている石川先生を見かけた。
「…………」
「あら、黒田くん。どうしたの?」
少し距離を置いて、先生たちが話し終わるのを待っていると僕に気づいた先生が声をかけてくれた。
「……あの、少し聞きたいことがあって」
「うん?」
「雪野さん、今日も来てないから今はどうしているのかなって」
「…………」
困っているような、悩んでいるような表情で先生は考え込んでいる。少しだけ悩んだあと、再び僕の方を見てから抱えていた手帳に何か書き始めた。
「はい、ここに連絡してみるといいわ」
丁寧に破いて僕に手渡してくれた手帳の切れ端に書かれていたのは電話番号だった。
「雪野さん、今は隣町のおじいさんとおばあさんの家にいるの。この間雪野さんのおばあさんと連絡をしたとき、もう三年生だしこの学校で卒業させてあげたいって言っていて、高校も都内がいいだろうってことで、こっちに引っ越してくるみたいよ」
「──じゃあ、また学校に来られるんですか?」
「ええ、今日の始業式には間に合わなかったけど、来週あたりから。長くお休みしていたから、その前に仲よしの黒田くんから連絡があったら心強いんじゃないかな?」
先生からも仲よしだと思われていることに少し恥ずかしくなったけど、三年間同じクラスで過ごして、行事のたびに一緒に頑張ってきた仲間だ。火事の前日も一緒にいて、それからずっと彼女の様子が気になっていた。
「ありがとうございます。今晩、電話してみます」
深々と先生に頭を下げて、僕は走って家に帰った。拓也を図書室で待たせていることはすっかり忘れてしまっていたけど、先生がくれた電話番号が書かれた紙を大事に握り締め、軽快な足取りになっていた。
次回更新は3月11日(水)、20時の予定です。