「雪野さんのお父さんは逃げ遅れて亡くなったの」
『──えっ』
「雪野さんはそのことでひどくショックを受けているの」
『…………』
雪野さんのお父さんが亡くなった、その言葉を聞いて全身がこわばった。昨日の帰り道、雪野さんはお父さんの大好物を作るんだって楽しそうに話してくれた。優しくて大好きなお父さんだと以前話してくれたこともあった。
雪野さんはお父さんと二人暮らしだ。そのお父さんを亡くしてしまった彼女の気持ちを考えると胸が締め付けられるように苦しい。
「……雪野さんのご自宅のことは聞いている?」
先生の問いかけに、僕は茫然としながらもなんとか頷いて、そして隼人に説明する。
「雪野さん、小さいころにお母さんが亡くなって、お父さんと二人だけで暮らしているんだよ」
「……じゃあ、雫ちゃんは?」
僕の服の裾を弱々しくつかむ隼人を見て、僕も感情をこらえられなくなった。心を引き裂かれるような、感じたことのない悲しみに、涙があふれてきて声を詰まらせる。
「雪野、さん……多分、今一人で……」
「…………」
二人とも、もうこれ以上言葉が続かない。肩に優しく置かれた手に視線を上げると、先生も唇を噛みしめながら目にいっぱいの涙をためていた。
「黒田くんも佐竹くんも、雪野さんとは一年生のころから親しかったから、心配だよね。今朝、警察の人から学校に連絡があって、雪野さんはお父さんを亡くしたショックで話せる状況じゃないと聞いているの。いつ学校に来られるようになるかわからないけど、雪野さんが戻ってきたら支えてあげてくれるかな?」
『──はい』
この日、僕と隼人は早退した。先生が先に僕たちの家に電話をして事情を話してくれたから、お母さんは何も言わずに優しく僕を抱きしめてくれた。
次回更新は3月10日(火)、20時の予定です。