おじいちゃんは上を見て、とぼけた顔をしていた。おかあさんは首をかしげて、ニコニコ笑った。翌日、波奈の家に、おばあちゃんが一人で遊びにきた。

「あれ? おじいちゃんは?」波奈がたずねると、

「ちょっとね、元気ないのよ」

おかあさんがお茶のしたくで台所に行くと、おばあちゃんは、波奈に顔を近づけて、ひそひそと小さな声で言った。

「なんだか昨日帰ってきてから元気がないのよ。昨日何かあったの?」

波奈はキョウリュウに追いかけられたことを、正直に話した。

「どうりで。そんなことがあったのね」

「ケガはなかったの?」

「うん。でも、こりごりよ」

「おじいちゃんはね、発明が大好きなのよ。でも、今まで役に立つものなんかなかったわね。お湯を凍(こお)らせるヤカン。いくらでも入るゴミ箱。雨にぬれないカサとかね」

「ヤカンはこわれたわ。ゴミ箱は三日目に爆発(ばくはつ)して、部屋中ゴミだらけになったの。カサはぬれないんだけど、人はビショビショ」波奈は思わず笑ってしまった。

おかあさんが紅茶を持って、部屋に入ってきた。

「楽しそうね。なんのお話?」

「おかあさんにはひみつ。ね」

「ふふふふ。そうね」

「うん? まあ、二人だけで何よ」

その日は、波奈とおかあさんとおばあちゃんの三人で、買い物に行った。新しい運動ぐつを、おばあちゃんが買ってくれた。

2 ヒメの予知

一週間後、おじいちゃんから電話があった。

「波奈ちゃん、すごい発明をしたよ! これからとなりの狭山(さやま)市のひょうたん池公園に行こうよ」

ひょうたん池公園は広く、台地を湧(わ)き水が削(けず)って谷や池ができている。台地と谷底まではおよそ十メートルくらいはある。たくさんの自然が残っている。台地の上には植物園と緑の相談所がある。

そこから五メートルほど下りると、広場がある。さらに五メートルほど下りると、小川やひょうたん池がある。ひょうたん池のまわりには、広い野原がある。谷をはさんで反対側には、自然のままの木々(きぎ)の生(お)い茂(しげ)る深い森がある。

一週間前には、キョウリュウに追いかけられてこりごりしたのに、波奈は新しい発明と聞くと、やっぱりドキドキワクワク。けっきょく、おじいちゃんと出かけた。ひょうたん池のまわりの野原は、枯(か)れ葉(は)のじゅうたんのようだった。

歩くと、カサカサ音がした。池に近づくと、カモたちが水辺から上がって、寄ってきた。いつものように、おじいちゃんはリュックサックから、食パンを取り出した。波奈はパンを小さくちぎって、カモたちに放ってあげた。

【前回の記事を読む】発明好きなおじいちゃん。いつも失敗してるけど今回はなにやらいつもとは違っていて…!?

 

【イチオシ記事】我が子を虐待してしまった母親の悲痛な境遇。看護学生が助産師を志した理由とは

【注目記事】あの日、同じように妻を抱きしめていたのなら…。泣いている義姉をソファーに横たえ、そして…