(……笹川さんに、会いたいなぁ)

結局、午前中はほとんど仕事に身が入らなかった。多少の罪悪感はあるものの、それも勝手に大きなクライアントを取り上げた上司への一種の意趣返しだと思おうとした。それだけで、気持ちが救われる気がする。

(いつもここでランチを食べてるって言ってたけど……)

 公園に立ち寄り、ベンチに近づく。

(本当にいた……!)

 案の定、穏やかな表情でサンドイッチを頬張っている笹川がいた。

「笹川さん」

「……くるみさん?」

 声をかけるとぱっと顔を上げ、驚いた表情に変わる。

「隣、いいですか?」

「ええ、どうぞ」

置いてあったコンビニの袋を取り上げ、くるみの場所を開けてくれる。くるみは小さく例を言ってから、その隣に座った。

「……今日、天気いいですね」

「ええ。こういう日は公園ランチ日和です」

「ふふ、そうですね」

笹川は、くるみに心配そうな眼差しを向けてくる。くるみはそれがわかって、なんとなく申し訳ない気持ちになった。これでは、話を聞いて欲しいんですというアピールをしているにほかならない。

「なにか、嫌なことでもありましたか?」

「……すみません、暗い顔してましたよね」

「大丈夫ですか?」

「……ちょっとだけ、理不尽だなって思うことが会社でありました。私が男性だったら、少しは話も違ったのかなって──」

ふとそこまで言って、自分が男性である笹川に言うような話でもなかったと思い直す。

「すみません、笹川さんに話すことじゃないかもです……」

「いいんですよ。僕はハトですから。なんでも話してください」

「……ありがとうございます……」

次回更新は9月25日(木)、11時の予定です。

 

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