【前回の記事を読む】「私は全然納得してないんですけど」…大口顧客の担当を外された、まさかの理由にもやもや。

訳アリな私でも、愛してくれますか

苛立ちのせいで、感情がコントロールできない。何が話したいのかもわからなくなってくる。今日ここに来たのは、本当は間違っていたのかも知れない。

「いえ、私もくるみさんと話したいと思っていましたから。おあいこです」

優しく微笑んでくれる笹川に、胸がきゅっと締まる。笹川から向けられる下心のない優しさを感じられるようだった。

「……笹川さんって、すごく優しい人ですよね」

「そうですか? そんなふうに思ったことはありませんが……」

「本当ですか? 言われません? 周囲の方とかに」

「うーん、どうでしょう。普段接するのは学生ばかりですし、あとはちょっと変わった教授くらいなので……あまり面と向かって言われたことはないですね」

「そうなんですね……意外だな」

「くるみさんも、優しい人だと思います。他人への思いやりがある」

「いや、全然! 普通に、この人むかつくって思っちゃいますよ。さっきだって、笹川さんに会うまでは、会社のことでむかむかしてたし……」

「むかむかって……いいですね。その表現」

何が笹川の琴線に触れたのかはわからないが、おかしそうに口元に手を当てて笑っている。

「……生きていると、毎日ハッピーというわけにはいきませんよね。私も嫌なことがあったり、理不尽な行いを受けたりした日にはそれについてしばらく考え込んでしまい、眠れない夜というのがあります」

「……そうなんですね。ちょっと意外です」

「そうですか?」

「はい……なんか、仏のような顔ですべてを許してくれそうな……」

「そうだったらいいんですけどね」