【前回記事を読む】皇室が奇跡に近いほど永く続いている主因は... 「日本書紀」にあった。史書に潜む、権威を絶対的にした巧妙な智恵。

第1章 日本民族及び国家の成立

第2節 国家の成立

1項 神話由来

③ 記紀編纂の主旨

記紀作成の問題を簡易に挙げておく。編修に時間を要した割に、国史となる記紀は神話、伝承等を寄せ集めて体系化しているので矛盾した内容、一貫性に不整合、欠陥も見られる。

この理由の一つは、初めての壮大な歴史書編纂事業であり、計画から完成までの運営管理が未整備で、有力者との調整が困難を極めたこと。二つ目は史実、伝説、構想等を錯綜して弥縫的に編纂した結果、理路整然と纏めきれなかったこと。三つ目は『古事記』が国内向け、『日本書紀』が唐王朝を意識して編集されたことによるものと推察した。

記紀は非現実的に見えても、内実を読み解けば、歴史的事実と伝承神話を脚色して、未来構想を描いた史書と類推しうる。只、歴史的事実とは権力抗争、侵奪であり、時に生殺与奪の歴史的流れを理想的且つ正統性のある国家として唱道する上で、神話で直截に話を盛り、牽強付会に走り、更には誇大修飾することは前提であり、且つ必須であった。

④記紀神話の国造り

簡明に国の始まりの梗概を記紀神話に則り書き下してみる。神々の世界を歴史が伝える現実世界に仮託してみると共通点が多く、理解し易い。中身の虚実は別にしても、神の代から幾つかの段階を経て、人の代に変遷してきたという流れが本筋である。

神話の基本構成は、天の原(高天原)に住む天つ神と国土(地上)に住む国つ神の相克と和解の物語である。天の原の伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)夫婦には、姉の天照大神(アマテラスオオミカミ)と弟の素戔嗚尊(スサノオノミコト)の二人の子供がいた。この2神が天つ神系の主役で、日本の国造りを始める。天照大神は文字から読めるように太陽神である。

太陽を神として祀る例は古代文明には一般的に見られ、エジプトのファラオも太陽神の子とされる。天照大神は後に皇祖神として伊勢神宮に祀られ、王権の確立に太陽崇拝が重要な要素として働く。素戔嗚尊は出雲系神々の嚆矢となり、血族の内訌を避けている。