【前回記事を読む】無事に飼い主のもとに帰ってきたピッポ。幸運にも犬好きな拾い主に助けられ、ピッポも飼い主も幸せな気持ちに…
第一走者 ピッポ(ビーグル犬)
へそくり
翌朝のことである。
日曜日なのでゆっくり目覚めたものの、案の定二日酔いの様子。あまり顔色のよくないまま起きてきて、玄関先に置きっぱなしになっているカバンをガサゴソやっている。
「あれ、ないぞ」
「何か探しもの?」と聞くと、「財布がない」と、眉間にしわをよせて、真剣にカバンの中をのぞき込んでいる。
「ズボンのポケットとか、別のところに置き忘れたとか、あるいは宴会場に落としてきたんじゃないの」
しばらく考えていた夫は、「いや、タクシーで帰ってきて、代金を支払ったから、帰ってきたときにはあったはずだ」と、記憶をたどる。
「それならタクシーを降りたあと、玄関に入るまでに、どこかに寄った?」
二人で顔を見合わせる。
「ピッポのところ!」
急いでピッポの犬小屋へ行くと、ピッポは日向で気持ちよさそうに眠っている。そこへ二人して駆け寄ってきたので、これは遊んでもらえるのかと、急に目を輝かせた。
タクシーを降りて、飛び石をたどり、途中でピッポのほうへ行った……と、二人で足取りをたどってみる。ピッポは何ごとかと尻尾を振り振り見守っている。
たどってはみたものの、財布はどこにも落ちていない。
が、塀際の雑草に何か紙が引っかかっている。おやっと思って近寄れば、何と千円札ではないか。さらにもう一枚、草に絡まっている。
「五千円札を出したからおつりに二千円と硬貨をもらった。それがどうしてここにあるんだろう」
タクシーを降りて、ピッポの顔を見て、ピッポの頭を撫でた。その際に財布が転がり落ちたのだろう。
おや、とさらに目を凝らしてみれば、地面に百円玉と十円玉が二つ三つ落ちている。
庭に芝が生えているものの、ピッポが繋がれている一角だけ半円形に草が生えずに地面がむき出しになっている。それだけピッポが行動して地面を踏みつぶしているため、雑草の生える余地がないということだ。