そこに硬貨が散らばり、お札が近くにひらひら舞ったとなれば、ピッポのとった行動は簡単に推測できる。
ピッポは落ちていた財布をくわえて、振りたくったのだ。そこでお札が宙を舞い、硬貨はその場に落ちた。
これには二人で納得。ピッポのキョトンとした顔に、しっかり尋ねる。
「財布はどこへやったの?」
じつは海外旅行した友人からのお土産で、ブランド品の革製の高い財布だった。角がすり切れないようにと飾り金具が付いたおしゃれな財布で、使い心地がよいと、夫も気に入っていた。
知らんふりを決め込むピッポの足元に目をやると、地面から何か光るものがのぞいている。もしかして……見つけたぞ、と掘り出してみれば、やっぱり件(くだん)の財布だった。
噛み心地がよかったと見え、革の表面には牙を立てた痕があり、ブランドのトレードマークである金色のプレートにまで、歯型の凹凸ができている。
よほど噛み心地がよかったか、ご主人さまの匂いが気に入ったのか、おそらくはしばらく楽しんだあと、宝物として地面に埋めたのだろう。
犬は野生のときの習慣で、食べ切れなかった食料などは穴を掘って埋めておく習性がある。あとになってまたほじくり出して、食欲を満たす。とっておきのお楽しみというわけである。
猫に小判、ピッポにとっては、財布の中身より革製品のほうがはるかに大切な宝物だったのだろう。
大事なお気に入りをとり上げられたピッポは、少し不満そうな顔をしながらも、陽にあたって居眠りを始めている。ブランド品の財布はお釈迦になったが、お金は無事であったので、人間もピッポを叱らずにおいた。