【前回記事を読む】「財布がない…」眉間にしわをよせ真剣にカバンの中をのぞき込んでいる夫。昨夜の記憶を辿ると…
第一走者 ピッポ(ビーグル犬)
老いてもなお
三日ほどして、腫れ上がった腕も正常に戻り元気をとり戻したものの、あれはやっぱり注射がうまくいかなくて、液が漏れだしたせいではなかったのか。三日も預けたのに、獣医さんはその代金を請求しなかった。
その翌年からは、毎日一粒ずつ飲ませるフィラリアの予防薬のお世話になった。 犬は嗅覚が発達しているので、錠剤を飲ませるのは大変である。飲んだふりして吐き出してしまったり、絶対に口を開けてくれなかったりする。
が、ピッポの場合は簡単だった。バターを塗った食パン一切れに錠剤を埋め込んでやると、目を輝かせてうれしそうに食べた。おやつをもらった感覚なのだ。食欲旺盛な性格が功を奏したというわけである。
一回飲み忘れたら、翌日は二錠飲ませること。そう言われて忠実に毎日毎日薬を飲むこと、四か月。もう蚊は発生しないだろうという冬の入口まで続いた。
薬の進歩も日進月歩。翌年からは、狂犬病の予防注射後の五月から、フィラリアの予防薬を飲むようになったが、今度はピンク色の液体になった。それもひと月に一度でよいという。
獣医さんからはひと月に一度、封筒に入ったチューブ入りの液体が郵送されてくるようになった。それとても、食パンに二㏄ほどの液体を垂らしてやると、ピッポはパクリと丸呑みしてくれた。
今ではチュアブルのようなクッキータイプの薬も開発され、三十日から四十日に一度の服用で、フィラリアの予防ができるようになった。
年老いてからのピッポは、散歩は近所をよたよた一回りするぐらいになった。車に乗るのは嫌いで、黙って乗っていることができない。車に乗せるときは、ケイジに入れてツーボックス・カーの後ろの荷台にのせる。
車自体が嫌いなのか、道中はワンワンの大騒ぎ。やっぱり自分の足で歩くのが好きなのだろう。
数か月してから、ピッポは腹水が溜まり始めて、獣医さんに毎週通うようになった。そうなると、車に乗せてもワンワン吠えることもなく、おとなしく乗っている。あまり長くはないのかな、と不吉な思いにとらわれる。
チワワやプードルのような小型の愛玩犬と違って、ビーグル犬は屋外で飼うのが当たり前だった。狩猟用の犬として、運動量も多いし機敏な動きをする。
家の中で飼おうものなら畳もカーペットもボロボロになってしまうだろう。寒さにも強いから大丈夫、と太鼓判を押されてドッグセンターから買ってきた。