老いてもなお

犬は人間の七倍の速度で、年齢を重ねていく。

十三歳になったピッポは元気そうでいて、散歩の速度が少し遅くなってきた。あれほど大好きだった散歩なのに、あるとき突然くたっと脱力したきり、歩かなくなってしまった。

ゆっくり歩かせたり、半分抱きかかえるようにして、ようやく家まで帰ってきた。

さっそく獣医さんに診てもらうと、心臓に負担がかかったのではないか、と言われた。そういえば、五~六年前に、フィラリアにかかっていた。

蚊が媒介するというフィラリア。犬糸状虫症といって、犬の体内で成長した糸状の虫が、肺動脈や心臓に寄生してやがて犬の命を奪う。当時診てもらった獣医さんは、まずは体内に巣くっている親虫を殺すために、ヒ素の注射をしなくていけないと言った。

ピッポを獣医さんに託して帰ってきながら、外で暮らしている犬をどうやって蚊に刺されないようにしたらよいのか思い悩んだ。今はペット用の蚊取り線香や薬剤がある。が、その当時はそのようなものはまだ売られていなかったし、ましてやフィラリアの予防薬もあまり普及していなかった。

どうやら熱があるようで、体を冷やすために穴を掘ったらしい。おまけに注射を打たれた右腕が、ぱんぱんに腫れ上がっている。

さっそく獣医さんのところへ連れて行くと、しばらく様子を見るからと、獣医さんに預けることになった。 

 

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