道のそばには死体が小さな山のように積まれていました。あの中にはまだ生きていた人がいたかもしれません。トラックに積まれて似島に運ばれ焼かれたようですが、それを見ても私は何も思いませんでした。両親の心もそうだったでしょう。犬や馬も倒れて死んでいました。私達は、それをまたいで通りました。
本当に戦争は人間を鬼にします。人を殺すことが罪にならず、敵軍をたくさんやっつけて殺し多くの命を奪った人は、むしろ名誉なことだとほめられ「金鵄勲章」がいただけた時代だったのです。
脇道にそれました。病院ではお医者さんもどうしていいかわからず、行っても順番に並んで赤チンを塗ってもらうだけです。廊下や階段にはたくさんの人がいて、
「水を下さい」、「助けて下さい」、「もう死ぬ」などと喚いていました。火傷した人に水を飲ませると「死ぬ」と言われて、どうすることもできませんでした。
火傷した両親の皮膚は化膿してウミがいっぱい。そのウミに蛆虫がいっぱい湧きました。包帯などしてもらえることもなく、そこらにあったボロ布で膿と蛆虫を一緒に拭き落とすのですが、拭いても拭いても蛆虫は火傷した両親の顔、腕、上半身、掌の表側に湧き続けるのです。膿と蛆虫との戦いが何日も続きました。
その間、叔父が潰れた家の中から外米と油かすを取り出してきて、庭で生でたべました。寝るのも食べるのも土の上です。助けに来てくれる警察も軍隊もいない。
そして、まだ戦争は続いていたのです。敵の飛行機は昼夜関係なく何台も飛んできて上空を旋回します。かくれる家も場所もない。防空壕の入り口は、爆風で倒れた大きな松の木がふさいでいます。私達はしゃがんで膝を抱いて、「この上爆弾を落とさないように」、「機関銃で打ってこないように」と祈るだけです。
本ピックアップは今回で最終回です。
今年は終戦から80年の節目の年。
世界各地で紛争が続く中、改めて平和について考える機会にしてみてはいかがでしょうか。