戦後80年 未来へ伝える戦争体験~戦禍の語り手たち~

戦後80年を迎えて

1945年の終戦から10年、20年と現在まで絶やすことなく語られてきた第二次世界大戦。
戦後80年という節目を迎える2025年、戦争を直接体験した世代が徐々に減り、
誰もが戦争を知り、その経験を語ることが出来るという状況は変わりつつあります。

それでも、戦争を語り継ぎ、受け継いでいくための第一歩は、何よりも“戦争を知る”こと。
不安定な国際情勢に置かれる中で、武器を持たないという選択を取るために、今一度戦争の時代を生きて、その惨状を目の当たりにしてきた人々の思いに向き合ってはいかがでしょうか―。

その思いにふれるために、今回は戦争を知るきっかけになる本をいくつかご紹介します。

消えることのない戦争の爪痕
「戦争を知らない君へ」著:棚橋 正夫

1936年に生まれ、火の中幼少期を過ごした著者が綴る忘れられない景色。伝えたい記憶。
焼夷弾が風を切り屋根の上を通過する音、地響きと悲鳴――語り継ぐべき戦争の物語は、その一瞬だけではありません。苦しみと恐怖に満ちた生活を乗り越え、生き延びた経験には、いくつもの教訓がありました。

「あの戦争で、家族も家も全て無事でした。運が良かったとしか言いようがありません。」

(本文より)

あのとき学生だった著者が語る「戦争」は、ただの再建の記録ではありません。喪失と、静かな怒りと、そして“生き延びた者の責任”が、行間から静かににじみ出ます。
知らない世代へこそ読んでほしい、今読むことに意味がある一冊です。

👉試し読みはこちら
戦争は、国民を極度に苦しめ、全てを破壊し悲惨な結果しか残らない。

戦時下に防空壕に避難する人々
 

平和に暮らせることって、当たり前じゃないんだ
「私の戦争体験」著:坂田 朱美 、絵:德重 心平

どれだけ時間がたっても、決して忘れてはいけない実際にあった物語。戦争は小さな子どもの目にどう映っていたのでしょうか―。

父の出征を見送り、母と妹と3人での生活。戦地で何が起きているのかもわからず、日常が少しずつ変わっていく。それは、子どもにとってあまりにも残酷な現実でした。前で起こる光景をただ受け入れることしかできない幼い少女の心は静かに揺れ動きます。

「『バンザイ!』を言いながら泣いていました。兵隊さんを見送ることを喜んでいるはずなのに『バンザイを言いながら、なんで泣くの』と不思議に感じました。」

(本文より)

この絵本には、「なぜ継承するのか」という問いへのヒントが込められています。
 子どもから大人まで、戦争を継承することの意味を“感じる”ためにふさわしい一冊です。

👉試し読みはこちら
【絵本】「昭和18年5月、出征するお父ちゃんを見送りました」

 

空襲で焼けた町をみて涙を流す少女
 

戦争の語り部として活動する祖母の思い
「氷上の蠟燭」著:菜津川 久

戦争を経験した世代と、戦争を知らない世代。その間には、埋めようのない決定的な違いがあります。家が焼け、町が焼け野原になった光景――それは、一人の人の心に一生残り続ける記憶です。

富山大空襲を体験し、語り部として語り継ぐ人生を選んだ祖母。彼女が「語り部」であることへの強い拘りの奥底には戦争への激しい感情がありました。

「厭だとか、言いたくないとか、そういうことじゃないの。瑠璃、知っての通り、母は焼夷弾をまともに受けて死んだわ。死んだのではなくて、殺されたのよ。
小さいながら私は、怯え、震え、憎しみ、憤り、何が起きたのか信じられず心が張り裂ける思いだった。今でもトラウマのように、夢に苛まれることがあるの。これ、わかるわよね」

(本文より)

世代を超えて語り継ぐことの意味と覚悟を、静かに、しかし強く問いかけてくる一冊です。

👉試し読みはこちら
「死んだのではなくて、殺されたのよ。」ずっと気にかけていたことを尋ねると、母は激しい怒りと共に、雄弁に語った......

戦争の経験を語る女性
 

おわりに―戦後 80 年という節目を迎える今こそ、戦争の記憶を継承する

戦後80年という節目に、戦争の記憶をどのように受け継いでいくのか。その答えのひとつが、「本を通して知ること」にあるかもしれません。
それぞれ、経験をもとにした言葉は、教科書では得られない“実感”を与えてくれます。
今回ご紹介した3冊はいずれも、戦争を知らない私たちがその現実に静かに向き合うための一冊です。
語り継ぐ人が減っていく今だからこそ、本というかたちで記憶を手渡すことができます。
まずは、あなた自身が“知る”ところから始めてみてはいかがでしょうか。

<今回ご紹介した記事の書籍情報はこちら>

『氷上の蠟燭』
・著者:安達 信

『戦争の語り部戦争を知らない君へ』
・著者:棚橋 正夫

『私の戦争体験』
・著者:坂田 朱美・德重 心平