俳句・短歌 短歌 2021.08.15 短歌集「命の雫」より三首 短歌集 命の雫 【第3回】 田中 祐子 癌と甲状腺機能低下症を患いながら、戦争の悲惨さ、 命の重さ、生きることの煌めきを詠み続ける92才の歌人。 待望の短歌集第3弾。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 思い出と一緒に歩あるく厳島いつくしま今は桜の無き季節ときであり 菜の花畑の向こうに造船所のありてキラキラと海輝いている 降る雨も急ぎ足にて通り過ぐ菜の花畑まだ蕾にて
小説 『曽我兄弟より熱を込めて』 【最終回】 坂口 螢火 用意した死に装束を、我が子に着せる。まだこんなに小さいのに、斬首だなんて…私が身代わりになって死にたい! 青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」声さえ別人のごとく裏返って、「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。「オオ――一萬、箱王」母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振…
小説 『アントライユ』 【第2回】 鈴木 恋奈 彼にピアスが増えたら、私は自分の耳にも印をつけて、ニードルを取り出す…「痛い痛い!」それでも彼とお揃いがよかった 【前回の記事を読む】たしか、彼が冷たくなったのは四年くらい前から――都合の良いセフレだと思っているのだろうか…恋は盲目と言うけれど、実際は恋をしている側の欲目に過ぎないのかもしれない。愛及屋烏(あいきゅうおくう)とは言っても、嫌いなものは嫌いなままだろう。こんな可愛げの無い脳みそになったのは、きっと目の前の男のせいである。一方、彼も愛だの恋だの言うタイプではない。彼が恋愛を語った時は、神様がひっ…