俳句・短歌 短歌 2021.08.02 短歌集「命の雫」より三首 短歌集 命の雫 【第1回】 田中 祐子 癌と甲状腺機能低下症を患いながら、戦争の悲惨さ、 命の重さ、生きることの煌めきを詠み続ける92才の歌人。 待望の短歌集第3弾。 この記事の連載一覧 次回の記事へ 最新 色褪せし芝生を照らす秋の日の闌たけて夕べの広きグラウンド お手玉に入れればシャカシカと音を立てそう茶色のバラの実 ハガキ一枚来れば楽しき日とならむ明るさが吾われを包む真昼間
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『29歳、右折の週』 【第4回】 言田 みさこ 淫乱な女は14、15歳で既に男を錯乱させる光を持つと言う。15歳の理緒子に対して、7つ上の兄は「男の目」になっていた。 「せっかくの誕生日なんだから、そうね、あさみの未来でも占ってあげようかな。さて ……と。じゃーね、あさみは生涯に何人、子供を産むか」手の中からカードを一枚取り出し、中央に置いて表に返した。ダイヤの7が出た。皆、明らかにげんなりした表情に変わった。つまんないこと始めたもんだ、こんな単純な占いなんか誰が面白がるか、と。ここでも理緒子の才能を見ることになるとは誰も思わなかった。「7人?」理緒子がカード…