「一週間前に学校を卒業して、ここに昨日入りました」

そんなことを言おうものなら、プライドの高い客なら術者を替えろとも言われかねないからだ。言われたことを反すうしつつ、初めての患者を懸命に施術した。他のことなら京子さんに口裏を合わせばよい。

案の定、患者は珠輝の経歴を尋ねてきた。さすが先輩、それには京子さんがすらすら答えてくれた。聞き終えた主婦は、

「ここは皆さんよい人たちだから、いつまでも勤めてね」

「ありがとうございます」

経歴はイケシャアシャアと伝えたものの、メッキは数分も経たないうちに剝(は)げたようだ。

施術を終え、代金として四枚の百円札を渡された瞬間、珠輝は感無量で、思わず涙ぐみそうになり、深々と頭を下げた。表情も変わっていたに違いない。患者は珠輝の肩に手を当てて、

「がんばってね」

と、耳元に口を寄せてささやいた。

次回更新は8月17日(日)、21時の予定です。

 

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