【前回の記事を読む】「ネットで買いました」彼女は妊娠していないのにカバンにはマタニティマーク、さらにコピーした障害者手帳を…【小説】
麻痺する女
前の夫のおかしさに気づいたのは結婚して半年ほど経ったころで、一つのことへのこだわりが異常に強く、マルチタスクが極端に苦手なことが引っかかった。
それから私は彼の不思議な行動一つ一つ(自室の電気をつけるスイッチの在り処を何か月経っても覚えられないとか、同じ会話を毎日同じ時間にしなければならないこととか)を書き留めるようになり、それがいよいよ溜まってきたタイミングで病院に連れて行った。嫌がる彼に発達診断を受けさせ、出た結果は限りなく黒に近いグレーだった。
手帳を取ってほしいと言った。どうしてそう言ったのか、嫌がる彼に手帳を勧め続けたのかは分からない。私は彼と別れてだいぶ経ってから、自身も手帳を取得した。
それは、かさむ薬代を浮かせるため、好きな映画を割引料金で観るため、人生のネタを一つ増やすため、心を麻痺させるため、自分自身を一秒でも長く生きさせるためだった。
今の夫はレオという。夫という表現はあまり好きではなく、主人という表現は嫌悪感で吐き気がする。
主人という表現を使う女は総じて嫌いだ。(そういうことを絶対しないという点でも先輩は私の先輩なのだ)
レオの中心はもうしばらく私であると確信しているし、私なくして生きられないところがもっとも好きだ。ことセもからセもお互い大好きで相性も良く、セで彼と繋がる時間は私の悩みを吹き飛ばしてくれる。
だが本当に好きなのは、心で繋がりたい相手は律なのだ。