【前回の記事を読む】自殺した子どもの家を訪ね、父親の声に耳を傾ける。私は聞き出したいし見定めたい。そこにニュースはあるのかないのか
働きたい女
小さな違和感を蓄積させ続けた結果、静かに孤立を深めていった。看過できないことは、怯まずに抗議した。
そうするとデスク、部長、社長といった具合に、中小企業ならではで、すぐにどんどん上に伝わり、順番に私を呼び出す人の役職も上がっていった。
そうして最後、ついに社長室に呼ばれたとき、社長は私の話を終始優しい顔で聞いてくれた気がする。
だが私の記憶に強烈に残っているのは、部屋を出る前の最後のやり取りのみなのだ。社長は言った。
「影があるんだよね、麦さんには。何か生きてきた中で今の麦さんを形成するような、そんな経験をしてきたんじゃないか」
私は頭をハンマーでいきなり殴られたような気持ちになった。突然、人権を侵されたような気持ちになった。
私の主張と、私の人生とは別である。家族でもない友人でもないただの会社のトップと社員との間で、踏み込んでいいものではないはずだ。
それも想像で私のアイデンティティを語るなんて。絶望しながらも適当に、死んだ魚の目をした笑顔でその場を切り抜けたのだと思う。
社長は満足そうだったし、やるべき仕事を終えた達成感のようなものを滲ませていた気がする。
確かに私の局でのあだ名は自他ともに面白がってつけた「闇の子」だった。アナウンサーなのに自己肯定感がすこぶる低くて世間を斜めから見ている嫌な奴。承認欲求を一番腐らせて周囲にスメルハラスメントをしていたのはこの私だったのかもしれない。