ほどなくして転職先を見つけた私は、きれいに次のステージに移行した。悔しくて、権力と戦って、抗って、何度も何度も人目を憚らず流した大量の涙などなかったかのように、番組最終回でのお別れの挨拶でも、局内での退職日の挨拶でも、一ミリも泣かなかった。
少し見栄を張って買った新しいテロテロのブラウスが意外にも薄手で、脇のところに汗が滲んでいることだけがとても気になっていた。別れ際には、これでもかというくらいたくさんのプレゼントをもらった。
こんなにも愛されていたのかと錯覚しそうになるほどの多さと、私を想って考えられた内容ばかりであったことに驚いた。
一番年の近い後輩アナは、私を退職に追い込んだ(本当はそんな単純なことではなく複合的要因によって私は去ることを決めたわけだが)御三家を上手な似顔絵で表現してプレゼントしてくれた。
そうして私の社会人生活第一章は幕を閉じた。
自分の心の電池が切れるのが早いか。転職先が決まるのが早いか。そんな勝負が静かに繰り広げられ、私はもう生活さえ守れれば新しい仕事の内容がどうだとかこまごましたことはどうでも良いと思っていた。
だが今になって思う。神様はいた。あの時も確実に私に神様はいた。年収のやたらと低い会社は、最終面接でちゃんと私を落としてくれた。あそこに決まらなくてよかった。今の会社の面接では履歴書の内容をつっこまれた。
「ラジオの新しい企画がしたい、とありますが、これは弊社でしている何かをアピールしたい、とそういうことですか?」
そう聞く面接官は、そうではないと分かっていたはずだ。目が笑っていた。私はすぐに否定し、他に受けている会社に送った履歴書を転用したのだと正直に答えた。
 
       
             
             
             
       
       
    
    
    
    
    
   